昔、ヨーロッパでは悪魔の草とも呼ばれていたベラドンナには強力な毒性があるといわれています。ベラドンナが体にもたらす働きや効能とともにその危険性や取り扱い上の注意点について考えます。
ベラドンナは悪魔の草
ベラドンナはナス科に属する植物で日本ではオオハシリドコロやセイヨウハシリドコロなどと呼ばれることもあります。主に西ヨーロッパに自生しており紫色の花を咲かせます。草全体にアトロピンやスコポラミンという強い働きをする成分を含んでおり、猛毒を含んでいます。なかでも根や根茎に強力な毒を含んでおり、黒くツヤツヤとしておいしそうに見える実も口に入れてしまったら大変なことになってしまいます。
ベラドンナの葉の表面からは皮膚がかぶれてしまうほどの油がでており触るだけでも注意が必要で、葉を触った手で眼をこすったりすると失明してしまう危険もあります。イタリア語で美しい婦人を意味するベラドンナですが、ヨーロッパでは人間や動物が誤って口にすると瞳孔散大や幻覚、精神錯乱状態が起こり死に至ることがある悪魔の草として恐れられています。とても恐ろしい植物ですが、適切に用いれば中毒症状を緩和する効能があるともいわれており、日本で起こったサリン事件でも患者を救った成分として知られています。
ベラドンナの働き
ベラドンナには副交感神経の作用を抑制する働きがあるアトロピンが含まれています。この成分は眼の検査をする際に瞳孔を広げる目的として使用されたり、麻酔薬として使用されたりすることがあります。ヨーロッパでは昔、瞳が大きくなって美人になるとして化粧品として使われていたこともありますが、働きが強いため現在では医師や薬剤師の管理、指導の元で適切に使用されています。毒性についての知識が少なかった時代には、ベラドンナの安易な使用によって命を落とした人も多かったことでしょう。
毒を以て毒を制すという言葉があるように強い中毒症状で苦しめられる人が多く発生した地下鉄サリン事件では、神経に作用して嘔吐や麻痺、呼吸困難などの症状を起こすサリンの解毒剤として硫酸アトロピンの注射で命拾いした方がたくさんいます。効能として鎮痛作用が認められているため胃腸薬として用いられているだけでなく、高熱やのどの炎症の解熱鎮痛剤としても広く使用されています。もともと毒性の強いものであるため植物そのものを一般の人が取り扱うことはとても危険であるといえるでしょう。
ベラドンナの効能
毒性が強いことで有名なベラドンナには特に根茎や根の部分のトロパンアルカロイドが含まれており、その成分となるヒヨスチアミンやアトロピン、スコポラミンなどは副交感神経をマヒさせてしまう働きがあります。誤って摂取した場合には重篤な症状が出るので注意が必要となりますが、毒性の強い成分であっても少量を適切に使用することによってベラドンナコンとして薬品として使用することができるようになります。さらに、ベラドンナコンの成分を水やエタノールに溶解させたものはベラドンナエキスとして副作用が少なく医療現場でも使用する頻度が高くなっています。
ベラドンナコンは鎮痛や鎮痙、散瞳や催眠などの効能があり、医師が様々な治療の場で活用しています。また、耳鼻咽喉の感染症やリンパ腺の腫れや痛みなどの症状を緩和する効能も認められています。皮膚疾患においても激痛を伴うできものや腫れものに即効性があり、症状の改善に使用されています。医師や薬剤師による処方なら問題はないと考えられますが、くれぐれも個人の判断で使用しないように注意することが必要です。
個人購入の危険性
強い効能が認められているベラドンナですが同時に強い毒性があり取扱いには細心の注意が必要となるものです。ドラッグストアなどに市販薬として置いてある可能性は低く手軽に個人が購入できるものではありませんが、海外ネット販売を利用すればベラドンナが配合された頭痛薬や鼻炎薬、化粧品などを個人購入することができます。しかし、例えば鼻炎薬にも鼻水を止める作用だけにとどまらないという但し書きがあるほどで副交感神経を麻痺させることによって効能を得るものとなっているので、たとえ適量を摂取するということでもその安全性は保証できません。
いまだに瞳を大きくする効果をうたった化粧品も見受けられますが、使い方によっては失明の危険性もあります。ネットで海外輸入で購入できる商品は、含有量や材料となっているベラドンナの品質など不透明な部分も多く、働きや効能よりも危険性の方が高いといえるのではないでしょうか。医療現場で検査や治療の一環として用いられることがある医薬品としての認識をもち、安易な個人購入で自分の身を危険にさらすことがないようにすることが大切です。
「ベラドンナの働きや効能、取り扱い上の注意点などについて」のまとめ
副交感神経を麻痺させることによって様々な働きや効能を有するベラドンナは同時にとても強い毒性をもっていることから、医師や薬剤師の処方や指導に従って必要な時に限り適切に摂取することが大切です。